すると、珊瑚というのは、何百年という悠久の時間をかけて深い海の底で海流に任せながら手を伸ばし成長し、その珊瑚が生きる場所が、私たちの歩く陸からの遠さや光の具合なんかで色が変わり、様々な生物と共存しながらその強くしなやかな姿になってゆく、というような事が分かりました。
そうして育ってきた珊瑚の色味や白く見えるフの入り方や、最終的には好み含めたなんやかんやで人間が価値を決め、職人が彫刻したり磨いたりと素敵な感じにして、さらにそれが金銀様々な土台に飾られてジュエリーとなるようでした。
なんだか面白いものだな、と思いました。
まず、時間という横軸。
その圧倒的に流れる時間の横軸に、万物それぞれ感覚の違う縦軸として常に刻まれてゆく瞬間。今、という概念。
だから、私の中の横軸に、ある日たまたま「真っ赤な珊瑚を見た。欲しい。」という縦軸が入ったのかあ、、とボーっと。
私の師匠はJames Moodyさんという方で、私がまだ18,9歳の頃に出会い、トンチンカンな私に随分熱心に色々教えて下さいました。
二十歳を過ぎた頃に、お宅に招かれしばらくレッスンをして頂いたときに確か、
「サオリ、楽譜とは地図だ。
君は地図が嫌いで読みたがらないから、見ないでまだ知らないところへ急に行こうとするね。だから、途中で迷ったり、でも素敵なお店を見つけたり、たまに変な犬に吠えられたりするよね。それはそれで羨ましいし楽しいこと。」
と、して訓練している楽譜に目印としていくつもの、メガネや虫眼鏡のマークを書いて「これが道しるべだ。」として笑いました。
「知らない所へ行った時も、たまには迷わず帰って来られるように。」と。
また、ムーディーが私に言ったことのうちに
「時計もまた、自分が今どこにいるのか確認するためのもの。」として、私に腕時計をくれました。
「まあ、まだそこまで気にしなくてもいいものだけど、一応あげよう。」と。
案の定、私には腕時計を着ける癖が未だにありませんが、珊瑚を見たときにムーディー先生の言わんとするところが分かった気がしました。
圧倒的な横軸として流れ続ける時間の中で、今自分がどの辺りに居るのか。
それを人間の方法で確認するのが時計。
いつでもどこでも、気軽に便利にそれを確認できる道具が腕時計。
「世の中には、困ったことや不穏な事もあるけれど、怖く汚いものなどサオリは見なくていいんだ。」
と、顔を強張らせて厳しく言いました。
当時は、過保護だなあ大袈裟だなあ、とも思ったものですが、いつも新しいものが大好きで、人間の限られた時間を知っていたムーディー先生だから言った優しい言葉だったのだな、と思いました。
今年も終戦記念日の夜が来ました。
時代は、世の中は変わってゆくものの様です。
いつまでも、いつまでも、優しく穏やかな日々が流れますことを。
矢野沙織
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