最近は毎晩ただ一本だけ映画を観ています。
どこかしらの国の誰かしらが監督を務め、「映画」という大作に向けた感受性を拝受してから眠る日々が心地よいのです。
以前は何作も何作も観ましたから、それは止めにして、一本ずつ。
昨晩は1995年公開の『リービング・ラスベガス』を観て。
注)文中に内容についての細かい描写の感想などがあります。
映画が始まってから既にもう主人公は重度のアルコール中毒。
彼はもう使われなくなった元俳優。
映画の新作発表パーティと聞けば以前の顔見知りの監督に小銭をせびりに行き、過去自分が出演した作品の権利をあさり、やっと手に入れた小切手にすら震える手指に力が入らずサインが出来なくてバーに引き返し、昼間から酒を飲んで出直し、銀行の窓口でも構わず急に雄弁になりデタラメを喋る…と言った生活に、街の人々やかつての映画仲間など彼の周囲は皆ハッキリと「君は病気だよ。」とやたら指摘。
皆々さん揃って彼が行く先々でキミ、ビョーキ発言。
「君、病気だ。」とは親しき仲にもなかなか言えることではないけれど、彼の周囲は皆それを面と向かって比較的怒るでもなく、あくまで言葉で本人に指摘している辺り、彼が以前は愛され信頼されてきた事の描写と感じました。
それを今まで黙認して彼をギリギリまで信頼していた俳優紹介会社のボスもこの頃には手切れ金を出して「君は病気だよ、残念だけど辞めてもらう。」と会社をクビになりハリウッドでの俳優生活を辞めざるを得なくなり、家財から何から全てを換金したベン(ニコラス・ケイジ)は、ラスベガスへ行って死ぬまで酒を飲むと決めた。
ここで、
「酒を飲んだからだめになったのか、だめになったから酒を飲むようになったのか。」
と、アル中らしい感傷的かつ印象的なセリフ。
多分どちらでもない、と私は思う。
ラスベガスに着き、ありったけの酒を買い込んで安宿に泊まっていると、ハリボテネオンの街でそれなりに苦労し傷付きながら娼婦をするセラと出会い…。
こう書けば割と使い古された「圧倒的にダメな男と売春婦の共依存物語」かなあ、と思う所ですが、ここはさすがハリウッドの本気。当然一味違うのです。
なんと言っても若く美しく、この街では高級な方である娼婦のセラの口には出さない覚悟と不安の錯誤がたまらないのです。
ある日には、まだまだ最悪の醜態を晒す前のベンはセラに「例え君でも、僕に酒をやめろとは言えないんだよ。いずれは君は僕を嫌になるんだよ。」と昼下がりにゆっくりと優しく言います。
セラは「ありのままのあなたを受け入れます。」と言い、スキットルをプレゼントする。
ベンは嬉しくて悲しくて、どうしたらいいのか分からない顔を一瞬見せます。アル中にスキットルのプレゼント。悲しいですね。
この映画では、ニコラス・ケイジの震えたり叫んだり暴れたりのアル中演技ばかりが評価されているようですが、このシーンの彼の表情は、セリフにしきれなかった心情を全て表しています。
普通ならば、明らかに常軌を逸した飲み方をする者に通りすがりでも「ちょっと気をつけなさいな。」くらい言う。
もといそれが彼女となれば、最初は良かれそう時間が経たないうちにほぼ100%、いかに酒を止めて一緒に幸せに、そして未来の為に健康になると素晴らしいかをあくまで穏やかに「まるで理解者は私しかいないのよ。」とばかりに話すようになるものでしょう。
しかし、それを聞きたくても聞けなくなったアルコール中毒者は、また繰り返し死ぬほど飲んでは時間など忘れて約束を破り厄介を起こし、その度に彼女は勝手に裏切られた気持ちになり、次いでは勝手に彼を信じる様になる。しかしまた彼の変わらない飲酒のための面倒事に勝手に裏切られた気持ちになり、そのうちに彼の一挙一動に日々一喜一憂する云々あって、最終的にヒステリーもギスギスも通り越して疲れて彼の元を去る事になるんでしょう。よく知りませんが多分だいたいそうでしょう。
でも、セラの覚悟は普通とは違いました。彼の全ての行動を許しましたし、お酒飲みを止めませんでした。
しかし「家に帰ってあなたが居たら嬉しいの。」と言うような彼らのほとんどプラッニックだった愛の形に、ある晩セラが仕事に出掛けるのをどこかで許容できなくなっていたベンが非常に嫌な事をセラに言ってしまいます。
その時にセラは、ひとつふたつと瞬きをしてから半身見返って、初めて彼に
「気を付けてね。」と言うのです。たまらん。
それからもアル中男と、強くしなやかな美人の悲しい物語が続くのですが、この映画で感じた事は、圧倒的短所を指摘せずに見守る或いは見殺しにする事の難しさ。
人は図らずも相手の行動に「心配」という布石を投げ付けてでしゃばり過ぎてしまうものです。
それは恋人関係だけでなく親子でも近しい人ならなんでも。
牽制や口出ししない事で相手が世間でいう「だめ」になっても、本当に本人がそれを希望するならば、それもまた有りなのでは。
と問う様な映画でした。
最後に、この映画の音楽ですが、非常にジャズがフューチャーされていてムーディーで良いのですが、内容や役者の表情に注視していると、最早ポップスくらい有名でむせ返るくらい繰り返し流れる重く甘いあのナントカ言うジャズバラッドのタイトルをいちいち最後まで思い出せなくて個人的にちょっとゾワゾワしました。笑
オススメの映画です。
矢野沙織

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