「マレーナ」口は災いの元  [矢野沙織]

昨晩は2000年に公開された映画「マレーナ」を観ました。

(まだ映画をご覧でなく、この先を読むと鑑賞の楽しみが減る、と思われる方はご注意下さい。)


時は1940年。まだ長閑なシチリア島の海沿いの街が舞台の映画です。

その街は、結婚して間もなく夫が招集された超美貌の人妻、マレーナの噂で持ち切り。


マレーナがひとたび街に出れば男達は前から褒めそやし、後ろからはまあまあのいやらしい言葉で、精一杯マレーナをインスタントに蔑んで自分のエゴを満たしたりする人たちに溢れているわけです。

女達はそんな男衆を見て面白いわけもなく「新婚のマレーナが男無しで暮らせるわけないわよねえ。」的な噂を盛んに巻くし立てます。


1940年代が舞台とあってやっぱりどうしても世界大戦中ですから、イタリアが参戦することに沸く市民や、それにより少しずつ大変になる生活。随所で皆マレーナを視線で追いながら暮らす人々が付けたり消したり、まるでバックミュージックの様に使われる戦況放送のラジオの内容で第二次世界大戦のどの辺りが時代背景なのかを図ることができてとても見事です。ちなみに私の使っているコーン製のアルトサックスは1942年製のものです。


この映画はあくまで青少年の視点から見た「永遠の人妻お姉さん」の数年間の出来事なので、大戦中と言うシリアスな環境に反して、どこかミュージカルタッチに事が運ばれ、また少年という生き物の視野の狭さも同時に表現しているように感じた素晴らしい作品でした。

というのも、「少年の視点」らしく、自分の生活圏しか見えていないことの現れなのか、街全体はとても小さく描かれ、大人は皆大声でばかばかり。それにマレーナの噂話しし過ぎな人々と、たまに戦争。それとなんつっても美しすぎる人妻。そんな感じで大変ミニマルな作品です。


さて、そんな少年もすぐに他の皆と同じ様にマレーナに魅了されてしまい、夜に家を抜け出し始めるとすぐに彼女の家に覗き穴ポイントを見付け出し、もうわっくわくなのです。

その日彼が見た夜の部屋でのマレーナよろしくモニカ?ベルッチは、はち切れんばかりの太ももからぐっと高い位置にある腰に留められたガーターベルトを外してストッキングを丁寧に脱ぎ、ウエーブの長い黒髪を解くと映える彼女独特のあの太めの首に映える強く美しくなんとなく仄暗い後ろ髪引かれるような顔面。そしてスリップ一枚のリラックスした部屋着姿になると、惜しくなんかない!乳なんて放り出してしまえ!とばかりにワガママボディーが裸足のまま、戦争に行った夫の写真を抱いて小躍りする様な清廉な人妻なのです!

しばらくこうしたご褒美シーンが続きますが、これはありし日のモニカ?ベルッチのための映画と言って決して大げさでないでしょう。

少年はそれからもマレーナと距離を取りながら彼女を観察するので、彼の中のマレーナはどこまでも無口です。

映画の序盤でマレーナの夫は戦地で殉死し、心底悲しむマレーナを知りもせず哀悼なんて面だけの男たちがまたどよめきます。

それからまたマレーナを巡りなんだかんだとあり、その度に男だけでなく女衆にまで口汚く陰口を言われ徹底的に避けられます。そんなことは現実にはあり得ないでしょうが、「少年の目にはそう映った。」と解釈するとすべて合点のゆくものです。

そして、とあるとても悲しい事があったであろう夜、少年に覗かれているとも知らずマレーナは夜な夜な自分で髪をザックザク切り、赤毛に染めて翌朝には真っ赤な口紅をさし、広場のテラスで足を組みタバコを吸います。


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みんなが意地悪をして噂した通り、どういうわけかある日マレーナは本当のbitch、売春婦になってしまうのです。

ここでもあくまで「少年目線」なのでマレーナはいつでも黙ったまま。そこも私がこの映画の好きな部分です。この女の心中をいくらでも好きに想像できるわけですから。

そしてあれよあれよと赤毛からプラチナブロンドを50’sカットにしたような「いかにも」な風体になったマレーナはナチお気に入りの売春婦となりその高笑いだけが少年に届きます。


しばらくすると戦況も傾き、シチリア島も爆撃に合うなどしてもまだ尚、マレーナは人々の噂の種で、皆の望み通りのbitchになったのにまだ彼女をこき下ろし、ナチに慰安したとかなんとか理由を付けて女衆からここぞとばかりにリンチに合います。そんな時、男共は黙って見ていたのが印象的でした。

度々「美人は美人で本当に大変なんだよな〜」とぼんやり思う事がありますが、それを盾に俳優やらしていても、どうしても人目を引いてしまう人間に対する集団心理たあ恐ろしいもんだよなぁ、と思いました。この作品では多少大げさにコミカル?に描かれていますが、人が目を離さない存在に対する描写は何か来るものがありました。


地元にいられなくなったマレーナは離れた所へ身を引き、それも嘘か誠か、そこでまた売春婦をしているという話でみな落ち着いていると、捕虜として捕まっていただけだったマレーナの旦那が人相を変えて帰って来ます。

なんとか彼女を探し出し、夫がマレーナを連れて元の街へ帰って来た時の表情がすごい。

基本的に無表情なのは序盤から変わらないのですが、緊張と怒りととうに死んだ心を無表情で表現し、そしてヘアメイクや衣装なんかではカバーできないであろう野暮ったさを以て死んで帰って来るマレーナ、モニカ?ベルッチ。ここにあり。


そのころ件の少年は勝手に大人になっていて、もうどうでもいい感じなのですが、最初で最後、落とし物をしたマレーナに少年は「マレーナさん、お幸せに。」と一言声を掛けます。これもまた良い。

なぜかというと、彼もまたマレーナを勝手に消費した男のうちの一人であり、きっと彼自身も、昔嫌った自分勝手な大人たちの一人になるであろうことを決定づけるような自己満足だけの一方的なセリフ。


しかし、古今東西美人なだけでbitchと呼ばれる風習と、それを否定なんかしてあげない美人の若妻一苦労時代を覗き見れたような同性からするとちょっと後味の悪い、でも目映い映画でした。


矢野沙織


🎶 矢野沙織 ”Bubble Bubble Bebop” 2015 Tour 第二弾 🎶

"Bubble Bubble Bebop Live Tour Second Round"

12/19 Sat 目黒ブルースアレイ [入替制]

12/21 Mon 大阪ミスターケリーズ [入替制]



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詳細はオフィシャルサイトより



2015年11月27日11:11 | Comment(2)
この記事へのコメント
少年の時の憧憬的感情は誰でもあると思うんだけど、僕も、昔嫌った大人達の一人になっているのだろうか。嫌だな…
Posted by 中村豊 at 2015年11月27日 21:17
モニカ絶対的にいい女だから観て!と男性に言われて観たのですが…女性目線では、美しさの余韻もかき消す程に、ただただ悲しいだけのストーリーでしたから…
Posted by mako at 2016年02月02日 07:07
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